SCHOLAR

採択奨学生の動き

「保証人の責任」から学ぶ社会的養護の子の自立と課題

奨学生 第3回交流会・勉強会

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今回も元気な笑顔が見られました

 

「日本財団夢の奨学金」の奨学生がほぼ月に一度のペースで集まる交流会・勉強会。その第3回が6月25日、名古屋市内で開かれました。6月は学校などの行事が活発になる季節。それもあって参加できたのは3人にとどまりましたが、交流会では、生活や就職のことなどを、主体的にじっくりと話す時間が持てました。また勉強会では、弁護士で前名古屋市副市長の岩城正光さんを講師に招き、「保証人の責任」について学びました。施設を出て家を借りる時などに必要になってくる知識です。参加者は真剣に耳を傾けました。

 

会場はこれまでと同様、NPO法人こどもサポートネットあいちキッズおもちゃサロン。絵本やおもちゃに囲まれながらの、和やかな会合です。前半の交流会では、冒頭に「他己紹介」を行いました。参加者には、これまで全回出席している人もいれば、そうでない人もいます。互いを知る度合いに差が生まれていることもあり、改めて仲間をよく知ろうと企画されました。

 

参加者は二人一組のペアになって、互いにインタビューをしながら相手の良いところを書き出してきました。紙に9つのマス目を作るところから作業はスタート。話をしながら、ふと現れる個性をとらえて、「長所」として言葉に落として行きました。ある参加者は、漢字を正しく使えることを指摘され、その背景として、自分のスマートフォンに漢字を学べるアプリを入れて空き時間に勉強していることを披露。他の参加者も、ヘアモデルとして活動した時の様子を写真付きで紹介し、その場にいる全員に驚きの声をあげさせるなど、にぎやかな交流になりました。

 

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他己紹介の結果を発表し合う参加者ら

 

続いては参加者が待ちに待った昼食。毎回、同NPOの協力で、ユニークな料理をいただいています。第1回はクレープ、第2回はインドカレー、そして今回は、ピタパンです。ひき肉をトマトなどと煮込んだチリコンカンを始めとして、様々な具をお好みで挟んで食べるスタイル。参加者には初めて食べるという人もいて、「これ、おいしい!」と具を勧め合いながら、楽しい食事になりました。

 

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リラックスした雰囲気の中で話も弾んだピタパンの昼食

 

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デザートをいただきながら、悩み事の相談も。互いの距離が縮まっていきました

 

食事後は、勉強会です。勉強会のテーマは毎回、社会的養護出身の若者が、施設を出て自立を始める時に助けになるような知識を学べるように選ばれています。今回は、家を借りるといった契約の際に直面する保証人の問題に注目。事情があって家族と暮らせなかった社会的養護の若者は、アパートの契約時に、身内に保証人になってもらえないケースが少なくなく、この保証人の問題は、自立に向けたハードルの一つとなっています。

 

講師の岩城さんは、この春まで名古屋市の副市長を務めるなど、政策の立案や執行にも尽力している弁護士です。社会的養護の若者の自立支援にも熱心に取り組んでいることから、講師をお願いすることになりました。

 

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講師の岩城正光さん

 

岩城さんは、「保証人の責任について」と題して、準備してきたレジュメを示しながら講義。保証には「通常の保証」と「連帯保証」があるが、実際は連帯保証が一般的あることを説明した上で、連帯保証とはどのようなものなのか、また、「根保証」という法律用語はどういう意味なのかを、事例を使って解説しました。

 

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馴染みの薄い法律の話ですが、自分の生活に役立つ知識。参加者の目も真剣でした

 

その後の質疑応答では、参加者が、学んだばかりの知識を自分の今の生活や人生に置き換えて理解しようと、積極的に質問の手を挙げました。例えば、社会的養護出身の若者の多くは、保証人を見つけられない場合、その代役を務めてくれる保証会社を有償で利用しているのですが、劣悪な環境の物件しか契約できないなどの課題があります。そこで、「保証会社以外に、何か手はありますか」という質問が出ました。

 

岩城さんの答えは「残念ながら、ありません」。ただ、賃貸契約において保証人は必須ではないため、貸主が必要ないと考えれば保証人は要らなくなるという事情もあるとした上で、「大家さんに社会的養護の子への理解があるかどうか」で状況は変わってくることを説明しました。

 

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真剣な質疑応答が行われた勉強会

 

また、保証人の説明で相続にも話題が及んだため、質問にはそれにちなんだものも出されました。例えば、生き別れになっていたり、疎遠になっていたりする親が、借金をしたまま亡くなった場合、そのお金の貸主は、財産の相続者に返済を請求することができるが、その財産の相続者には、血のつながった子も含まれると岩城さんは説明しました。また、財産の相続を放棄すれば、借金の返済をしなくてもよくなることも紹介しました。それに対し、参加者から、「(普段からつながりがないので自分では知る由はないが)親がなくなったら、わかりますか」などの質問が出ました。

 

岩城さんは、親が亡くなった場合、戸籍が別になっていても血のつながった子には、行政から連絡が入るということ、相続の放棄は生前にはできないのでその人(親)が亡くなってからしかできないこと、そして、親の借金返済を免れるためには、親に借金があったと知ってから3か月以内に相続放棄の手続きをしなければならないことなどを説明しました。

 

このほか岩城さんは、大学生・大学院生である参加者に対して、人生のエールも送りました。「大学時代は社会に出る予行練習ができる時期。高校までは小学校からの延長ですが、大学生になると様々な自由を得られます」として、今の生活を有意義に過ごしてほしいと語りました。また、オーストリアの精神科医であったビクトル・フランクルの言葉を紹介しながら、「苦労のある人生にも、すべて意味があります。自分の人生を意味で充足させてください」と言い、「生きる意味」や「自分の価値」を見出そう、と呼びかけました。

 

次回の交流会・勉強会は8月に予定しています。