2017年度第2回交流会
「社会的養護の子に、今の私が伝えたいこと」
2017.08.25 (金)
「日本財団夢の奨学金」の奨学生が全国から集う交流会。その2017年度第2回が8月14、15日、大阪市内で開かれ、やむを得ず来られなかった人を除く12人が出席しました。「社会的養護の子に伝えたいこと」を各自が発表したほか、前回の交流会で課題に上った情報発信についても議論を深めました。
第2回交流会は、初めて会場を大阪に移して開催しました。初日はお昼に集合。慣れない場所ということもあり、大阪駅で駅員さんに道を尋ねるなど、到着までに苦労した奨学生もいましたが、全員元気に再会を果たしました。奨学生を伴走しながらサポートするソーシャルワーカーの荒井和樹さん、高橋亜美さんも参加しました。
今回も奨学生の中で発足した企画グループのメンバーが進行役です。まずは順に近況を報告し、続いて翌日話し合う議題を確認しました。①社会的養護の子に伝えたいこと、②情報発信、③社会的養護のあり方、④行政との協力の4点です。
アイスブレイクも行いました。交流会は2回目とは言え、まだ個人的に話したことがなかったり、話したとしても挨拶程度だったりするケースも多く、親睦を深めることは依然として交流会の大きな目的になっています。
夜は、賑やかな繁華街を歩いて飲食店へ。食卓を囲みながら、懇親会を催しました。奨学生はみな、会議室での公式な議論を終えて、リラックスした表情でした。日本財団の担当職員やソーシャルワーカーも交え、公私にわたる様々な話題で盛り上がりました。
途中、保育士を目指す奨学生が皆の前で立ち上がり、子供たちに好評という手遊びを実演して、全員がやってみる場面も。笑い声が絶えない会は午後9時前にお開きになり、1日目の日程を教えました。
議論を前に考えを紙に書き出す奨学生たち
2日目は午前中のみで、午前9時にスタート。この日は、ファンドレイジング担当職員が見学に訪れていました。夢の奨学金には、日本財団に寄せられた寄付金が活用されているためです。そこで、見学の職員が冒頭あいさつし、「私の仕事は、お預かりした寄付金がどのように使われているのかを、寄付者さんにお伝えすることです。皆さんの活発な議論を聞き、寄付者さんに届けたいと思います」と話しました。
議題は、前日に確認した①社会的養護の子に伝えたいこと、②情報発信の二つに絞りました。③社会的養護のあり方、④行政との協力は、社会福祉への知識や関心が奨学生の間でまちまちという意見もあり、次回以降に回しました。
進行役を務める企画グループのメンバー(右から2人目)
社会的養護の子に伝えたいこと、については一人ひとりの人生が反映された発表となりました。
まず、進行役の奨学生が、「自分の過去を振り返り、あの頃の自分は何と言ってほしかったかを思い出して考えてみるのもよいと思います」と話した後、約30分の「考える時間」を設けました。奨学生は宙を見つめるなどしながら思いを巡らし、紙に言葉を書き出していきました。
続いて順に発表をしました。言葉は個人によって違いはありましたが、いずれも「幸せになるために、今どうすればよいのか」というヒントを、先輩の立場で考えた発言でした。
議論の途中には笑顔がほころぶ場面も
「外の世界や周りに目を向けること。自分は虐待を受けたが、同じ境遇の子は、周りの人に期待したり信頼したりするのが難しい。しかし、周りに目を向けないと、将来への選択肢が減ってしまう。現状が苦しくて、『もういいや』となったらやられ放題になり、それはあってはならない。まずは、外に出るきっかけを作ることが大事だ」
「好きなことをやる。自分はわりと施設内でも先輩の言いなりで、他者の評価を気にしていた。好きなことやろうとしているうちに、自分の好き嫌いが分かるようになり、将来何をやりたいのかを知るきっかけになる。それに、達成した時の喜びを知ると、つらいことも一つの過程と思えるようになる」
「自分から頼れる大人を見つけることが大事。頼れる大人が見つかれば、情報が入ってくる。実際、自分のケースでは、この奨学金の情報を得たのは里親からだった。施設に入ったのは貧困からだったが、かつては自分も周りに言えなかった。言いづらい社会があると思う」
自分の生い立ちにも触れながら発表
「楽な方法と幸せになる方法とは違う。自分は、楽な方法に逃げた結果、つけが多く巡ってきた。目の前のことを、どう選択するかを考えてほしい」
「友達を作ること。僕は施設にいることを言えない時期があった。仲の良い友達に打ち明けた時、受け止めてもらえた。気持ちが楽になった」
「選択の自由と自己決定。選択の自由があって、はじめて自分で決めることができるから。決めさせてもらったが形だけだった、というのが自分の場合多かった。『あの時、君はそういうふうに決めたよね』と、後になって言われ、自分の中に葛藤が生まれたり、『いや、あの時はその選択肢しかなかったでしょ』と他者への怒りにもなったりした。自分と向き合って一つでも自分で決められたらいい」
「自分の世界を縛らず、心を自由に。うちの両親はDV(ドメスティックバイオレンス)で離婚したが、隠さないといけないのは所在であって、パーソナリティではなかった。境遇の縛りを自分から跳ね返すくらいの力をもってほしい」
互いの意見に熱心に耳を傾けました
「幸せを感じてほしい。私が幸せを知ったのは小学5年生の時。それまで、比較する環境を知らなかったから。小学3年生まで施設で、そのあと里親の元で暮らしたが、大学の授業で幸福指数を計った時、11歳ぐらいまで、自分の境遇を不幸だと感じたことがなかったと分かった。社会の常識をある程度知っていれば変わってくる」
「いろんな経験をしてほしい。目標や夢は経験から生まれる。私たちの環境は制限がいっぱいあるけれど、あきらめないでほしい」
「小学生には、甘えたい時は甘えてもいいんだよ。中学生には、過度に大人ぶらなくてもいいんだよ。高校生には、あきらめないで、と言いたい。施設での暮らしを通して、小学生は小さいながら遠慮していたり、中学生は大人に頼ることが苦手だったりするのを見てきた。高校生への言葉は、自分のやる気の問題だったら仕方ないが、金銭的なことがあきらめる原因だったら、それは自分で選んだ境遇ではないので、あきらめないでほしいという気持ちを込めた」
時間が限られるため、互いにコメントすることはできませんでしたが、奨学生は、それぞれの発言に真剣に耳を傾けていました。
情報発信についての議論は持ち越しに
後半の議題、情報発信については、7月に開設した夢の奨学金のツイッターアカウント「日本財団夢の奨学金@NFshougakukin」の活用について主に意見を出し合いました。時間をかけて、今後も議論を進めていくことになりました。
最後に、感想を共有し合って交流会は終了しました。奨学生からは「個人同士のつながりが深まった」「こういう場だからこそ話せることがある」などのコメントが出されました。奨学生をサポートする職員らも感想の共有に加わり、見学のファンドレイジング担当職員は「皆さんの考えを聞いて、熱いものを感じました」と話していました。
次回は12月2、3日、名古屋市で開催の予定です。