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採択奨学生の動き

観光学部で学び、念願の大手ホテルに内定。「人への気遣い、思いやり」を大切にした仕事をしたい!!

『日本財団 夢の奨学金』の6期生のAさんは、現在千葉県の私立大学4年生。宿泊の接客業を志し、観光学部で学んできました。その学びと経験が実り、大手ホテルに就職が内定しました。「ほんとうに夢のようです。これまで支えてくださった方に感謝しています」と顔をほころばせるAさん。学生生活で学んだこと、就職活動について、どのような職業人を目指すのかなど、喜びと決意を語っていただきました。
 

インタビューに答えてくれた 夢の奨学金6期生のAさん
 

自ら民生委員に相談し、里親家庭へ

 

観光学部の4年生であるAさん。夏に大手ホテルの内定を得て、現在は卒業制作と東京での一人暮らしの準備、就職前のアルバイトに精を出しています。Aさんは中学2年生のときから里親家庭で生活し、高校、大学への進学は里親の支えによって実現しました。

 

私はタイ人の母の元に生まれ、日本国籍がないまま日本の小中学校に通っていました。幼少期は実母の知人に預けられたりしながら過ごしました。健康保険もなく、病院に行くと全額実費で払わなくてはいけませんでした。小学生の頃はクラスメイトに心無いことを言われることもありましたが、毎朝迎えに来てくれる友達もいてくれたおかげで登校できていました。実母は私に対して愛情はあったと思いますが、生活面ではご飯やお風呂にも苦労する日々が続いていました。中学生になってしばらくしてから、「このままでいてはいけない」と感じて、その頃私たちの様子を時々気にかけてくれた地域の民生委員に連絡しました。すると翌日、児童相談所に連絡が行き、一時保護となったのです。中学1年生の終わりごろでした。

 

一時保護所では食事や入浴、寝るところは安心できました。しかし、母とはもう会えなくなるのかもしれないと複雑な気持ちにもなりました。職員から児童養護施設と里親家庭のどちらがよいか希望を聞かれ、「里親さんのところに行きたい」と答えました。これまで自分の家庭環境が周りと違うことが気になっていましたので、普通の家庭ってどんなところなのか、みんなどんな風に育っているのかを知りたかったのです。
 
希望を出したものの、里親が見つかるまでは時間がかかり、一時保護所にはかなり長く居ました。学校にはいけませんでしたが、一緒に居た子たちとも友達になれましたし、職員にも話を聞いていただいて、とてもお世話になりました。中学2年生になって里親家庭が決まりました。転校することになったので、毎朝迎えに来てくれていた優しい友達とは離れ離れですが、彼女が私を支えてくれたように、私も誰かの支えになれるようになりたいと思いました。最初に私に影響を与えてくれた人だったと思います。
 
里親家庭に初めて行った日は、「ここがあなたの部屋だよ」と個室を用意してくれました。里母、そして成人している兄と姉がいる家族。里父は私が来てからすぐに亡くなったのですが、私が迎え入れる最後の里子だということで、最後まで面倒を見るといってくれました。
 
里親との生活はありがたい思いでいっぱいでしたが、思春期にすでに出来上がっている家族の中に入っていくわけですので、心の壁もあります。私は一般的な常識もあまりわかりませんでしたし、家のルールもうまくなじめず、最初の頃はぶつかることもありました。それでも里母は「自分のことは自分でやりなさい」と私が自立できるように見守りながら育ててくれました。中学3年生になると、自分で制服を洗ってアイロンがけしている姿を見て「あなただったら全寮制の学校も行けると思うよ」と。在留資格がない関係で苦労をしてきたので、里母は「高校進学して欲しい。それまで面倒見るから」といってくれました。
 

奨学生のAさんは翌春からホテルで働きます
 

全寮制の高校に進学。自立に向けて努力する

 

その後、奈良県にある全寮制の高校に入学。里母は月に1回は面会に来てくれました。寮生活でも周囲に気遣いができるようになるために、まず家庭の中でがんばろうと思い、長期の休みで里親宅に帰省するときに、早起きして家の手伝いをして、自分のできることを増やしていきました。夏休み明けに学校に戻ると、「休み前とはなんだか違うね」と言われました。里母からも「高校に行ってから成長したね」と、それぞれの場で成長を認めてもらえてうれしかったです。
 
高校卒業後は就職するという話になっていました。しかし、日本で生活するためには高校や専門学校よりも大学4年間を修めた方が、在留資格が取得できることから、大学進学を決意しました。そんな折、兄が「千葉に観光学部がある大学がある。実家からも通いやすいので受けてみたら」と提案してくれました。
 
入試の面接ではすごく緊張して、観光学部で何をしたいかというより、私はこの大学に入りたい!という理由を必死で話してしまいました。でもその熱意が伝わったのか、合格できてうれしかったです。
 
奨学金についても、里母と兄もいろいろな情報を集めて応募に協力してくれました。公的な奨学金は国籍がないため応募できず、民間のものにいくつか応募しました。『夢の奨学金』の応募書類を書くときも自力だけではなかなか難しかったので、担任の先生と現代文の先生にお願いして応募書類の文章を見てもらい、アドバイスをいただきました。大学に進学してやりたいことは、観光学科で将来の仕事として接客業について学びたいという具体的な目標がありました。
 
その時期はコロナ禍だったので、面接はオンラインでした。こちらの面接でもやはり緊張しましたが、観光学部で学びたいことを精一杯伝えました。合格は里母から電話で教えてもらい、「来年から大学生、がんばるんだよ!」と喜んでくれたのを覚えています。
 
里親家庭や全寮制の高校での生活体験を経て、私はようやく「人を気遣い、思いやる」ということができるようになった気がします。仕事としても人を気遣い、思いやり、もてなしたりする仕事がしたいと、将来に向けてのビジョンが湧いてきました。
 

インターンシップで接客の経験を積む

 


ゼミの課外活動で都内の外資系ホテルを見学している様子
 

大学生活の4年間は、やりたい仕事に直結する貴重な学びと経験を積むことができました。インターシップ制度が充実していて、観光地でさまざまな仕事を経験できました。行く先々で、現役で働いている方々の考え方に触れることができたのは大きかったです。「この人の考え方や働き方はいいな」と思ったら自分の中に取り入れるようにしました。
 

ゼミで卒業制作の話し合いをしている様子
 

特に、2年生の夏の長期インターシップは思い出深いです。自然豊かな長野の山間の旅館に1カ月半くらいの期間行かせていただきました。ここは厳しい職場で有名でしたが、理不尽に怒られることはなく、適切な指導をいただけてとても勉強になりました。私も積極的に「お客様にこう言われたときはどうすればいいですか?」など質問すると、先輩が詳しく教えてくれます。このときに学んだことは、人と接するうえで役に立っています。この経験が自信になり、次のインターシップでも、その後に始めたアルバイトでも評価してもらえるようになったと思います。
 
『夢の奨学金』では、奨学生交流会にもできる限り参加しました。最初は周りが優秀な方々ばかりで、「私がこのような人たちと一緒にいていいのだろうか」と気後れしました。でもざっくばらんに話をするなかで、自分の意見が言えるようになり、話を受け止めてくれたり、考え方をほめてもらえたりして、自信がついていきました。
 
金銭面に関して安心して学ぶことができたのも大きかったです。せっかく支えてもらっているのだから、講義を休んだり、単位を落としたりしてはいけない、頑張らないといけないというモチベーションにもなりました。

 

就職活動ではこれまでの経験が活かせた

 

就職活動を本格的に始めたのは3年生になってからです。仲居になりたくて就職できる旅館を探していましたが数が少なくなかなか厳しかった。そこで宿泊という分野で範囲を広げ、都心のホテルでの就職を目指して活動しました。
 
さまざまな職場をインターンシップで経験させてもらったので、それなりの自信もあり、最終面接までは行くのですが、なかなか合格できません。そんな折、ゼミの先生からある大手ホテルに応募してみるかとお声をかけていただき、このチャンスを活かしたいと思ってチャレンジしました。そして一次試験、二次試験をクリアし、最終面接まで行けたのです。
 
最終の社長面接では数多くの大学の方々に交じって緊張しました。それでも精一杯「この仕事が天職だと思える働き方がしたい」ということを伝えました。面接の最後に「ありがとうございました」と挨拶したとき、こんなすごい場所にはもう2度と来ることはないかもしれない、ここに来られただけでも良かったと感謝しました。
 
そして2週間後。「落ちたかもしれないから、美味しいものを食べて元気を出そう」と友人と会食をしていたところに、合格の知らせが届きました。本当にびっくりしてしまって、夢かもしれないと思ったほどでした。面接で「この子ならがんばれる」と思っていただけたのだと思うと、いままでのインターシップやアルバイトの現場でご指導いただいた方、すべてに感謝の気持ちでいっぱいになりました。
 
夢の奨学金では、ソーシャルワーカーの方にもお世話になりました。3年生になって一人暮らしを始めてからは特に、度々様子を見に来てくださって、相談にものっていただけました。現在は在留資格の申請をしているところですが、それについても詳しい弁護士をご紹介くださり感謝しています。また、沖縄の交流会で、初めて飛行機に乗り雲の上まで上がって青空が広がってる景色を見た時に、とても感動して、以降どんなに天候が悪くて気分がよくなくても、雲の上にはきれいな青空が広がっていると思ったら前向きな気持ちになれました。こういう経験ができたのも夢の奨学金のおかげです。

 

夢の奨学金に応募を考えている方へ

 

私が夢の奨学金に応募したときの叶えたかった「夢」は、大学で学んで観光関係の仕事に就くことはもちろんですが、その先の夢として、日本と海外の架け橋になりたい、ということでした。私のルーツはタイにあります。実はまだ訪問したこともなく、タイ語も話せませんが、観光に関わる仕事をしながら、両国をつなぐ何らかの架け橋になることができたらと思っています。その夢を叶えるために、貴重な奨学金をいただき、就職も決まって、第一歩が踏み出せたと思っています。自分の夢を叶えたい、そのためにがんばりたい、という方がいらしたら、ぜひ応募してくださったらと願っています。
 
私自身はこれから、歴史あるホテルの一員として、誇りを持ってブランドを守っていく仕事をしたいと意欲に燃えています。お客様に対してもそうですし、他のスタッフの方からも「この人とは働きやすいな」と思ってもらえるようにアンテナを張っていきたいです。そして、仕事で成果を出すことで、これまで支えてくださった方々に恩返しをしていきたいと思っています。