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採択奨学生の動き

第3期奨学生インタビュー第6回

まずは社会福祉士に合格すること! 進学や自立を目指す人の伴走者になりたい

3期生6回目のインタビューにご登場いただくのは、岡山県立大学保健福祉学部4年生の西萌華さん(22)です。中学生の頃から「社会福祉士になりたい、大学に進学したい」と努力し続けてきた西さん。「進学して資格を取り、目標の仕事に就くことができる姿を、次の世代の子どもたちに見せたい」と、思いを語ってくれました。

 

インタビューはリモートで行いました

 

将来の夢が社会福祉士になった理由

 

11月に児童福祉司、2月に社会福祉士の国家資格試験を控え、準備に余念のない日々を過ごしている西萌華さん。無事に資格を取得したら児童相談所もしくは児童養護施設で働くことを目標にしている。現在22歳の西さんは、幼少期から、何度か家庭復帰も試みながら、高校生まで児童養護施設で生活を送った。

 

「3カ所の施設を経験しましたが、私にとっては施設での生活は安心できて、楽しい思い出も多い場所になっています。」

 

こうした生い立ちの中で、社会福祉士になりたいという思いは早々に芽生えた。

 

「小学3年生から中学生までの多感な時期にいたのが大規模施設でした。私は直接嫌な思いはしていませんが、周囲ではトラブルもありました。そんな中で、施設の職員さんに精一杯支えていただいたと思います。

 

入所している子どもたちを支えつつ、その保護者との関係づくりも大事に考えていて、大変なお仕事だけど、こんな大人になりたい、子どもを支える存在になりたいと思うようになりました。」

 

児童相談所や施設で働くためにはどんな資格が必要か、自分で調べて見つけたのが「社会福祉士」だった。中学生の頃から、この資格が具体的な夢になっていった。

 

 

職員が奨学金の応募に親身になってくれた

 

中学卒業後は、福祉科のある高校に進み、いったん家庭復帰をしたが、再度施設に入所することに。

高校では勉強と実習に明け暮れた。介護福祉士の国家試験を受けるなど、多忙な日々を過ごしていた。振り返れば、幼少期から勉強への意欲は衰えることはなかった。

 

「3カ所目となった施設は、以前の施設とはだいぶ雰囲気が異なりました。小規模なところでしたので、職員さんとの距離も近くて、いろんなことが相談できました。施設の生活でストレスを感じることはありませんでしたね。2人部屋で落ち着いて勉強できないときは、共同スペースで深夜まで勉強していてもそっとしておいてくれました。実習期間中は慣れない環境でストレスが溜まりやすいから、1人になれる部屋がほしいと相談すると応じてくれました。何かと相談しやすい施設でした。規則正しく安心感のある生活を送ることができました。

 

特に、2年連続で担当してくれた職員さんがとても親身になってくださって。進学に関してはさまざまな奨学金の情報を共有してくれました。」

 

その職員が見つけて勧めてくれたのが、『日本財団夢の奨学金』だった。

 

「新しい情報でしたし、本当かな?と心配になるほど手厚い支援で、私が(夢の奨学金を)受けることができるかなんて未知数でしたが、職員さんの後押しもあって応募することにしました。私の夢は社会福祉士になる、と明確だったので、書類でもしっかり思いを伝えることができたと思います。

 

二次審査の面接は隣県の広島であったのですが、職員さんも一緒についてきてくれて心強かったです。奨学生に選ばれたとき、職員さんもご自分のことのように喜んでくれました。」

 

 

最初の報告会で大いに刺激を受ける

 

「夢の奨学金を受けることができて、経済的な部分で本当に助かりました。それまで、アルバイトは、二つ掛け持ちしていたのですが、大学進学となるとそれでも足りないくらいでしたから。安心感を持って勉強できることもありがたいことです。勉強に十分な時間を取ることができます。」

 

晴れて奨学生となってからは、報告会や交流会にも積極的に参加している。奨学生になって初めて参加した報告会で、先輩の奨学生の話を聞き、とても刺激を受けたという。

 

初めての報告会に参加したとき

 

「全国の社会的養護を経験した方々とお話をすることができて、自分だけが苦しんできたわけではないのだなと、つくづく思いました。

 

その後の交流会でも、常に良い刺激を受けています。皆さん活動的で、留学をしたり、ご自分のブランドを立ち上げたり、すごいなと思う方々ばかり。私もやりたいことにチャレンジしていこうと、そう思わせてくれる仲間です。

 

名古屋に住む3期生の方が岡山まで遊びにきてくれたこともあります。今は交流会もリモート中心ですが、早く直にお会いして、語り合いたいです。」

 

経験者が支援をするということ

 

夢の奨学金に応募するときは、児童相談所や児童養護施設の職員になりたいと書いたが、現在は社会的養護のアフターケアや自立支援にも関心が出てきた。

 

「夢の奨学金ではソーシャルワーカー(SW)が付いてくださいます。その方に伴走していただきながら、アフターケアは本当に大事だと実感しているのですが、まだまだ(多くの社会的養護経験者には)行き届いていないと思ったからです。

 

大学2年生のときに、SWに付き添っていただいて、地元のアフターケアの事業所を訪問させていただきました。3年生からはそこでボランティアもしています。実際に現場に触れると、一筋縄ではいかないことも多いことが分かりました。まずは社会福祉士として経験を積んでから、アフターケアにも関わっていきたいと思っています。専門的な学びを始めたことで、視野が広がっていると感じています。」

 

西さん自身が社会的養護の経験者であることについて、考えを巡らせているという。中高生の頃までは、社会的養護出身者である自分は、同じ境遇の人の気持ちを分かってあげられる。同じような経験をしてきたからこそ、そうでない人よりは気持ちを理解してあげられるのではないかと思っていた。これは社会的養護出身者である私にしか出来ない仕事だと。しかし、大学に進学して学びを深めていくうちに、もっと俯瞰した視点が大切だと思うようになった。

 

「家族関係に悩み、施設で育った経験があることで、同じ境遇の人の気持ちが分かってあげられますし、寄り添うことができる。それは大きいと思っています。ただ、経験者ゆえに考え方が偏ってしまうこともあるかもしれないし、経験者ゆえに話に巻き込まれて自分の感情をコントロールできなくなることもあるかもしれない。そこは気を付けないといけません。

 

私自身の経験や考えが、支援を受ける人との関係性の中でも正解とは限りません。当事者だからこそわかる部分と、当事者だからこそ距離を持つ視点、そして他の支援者との連携が必要になると思います。こうしたことを心に留めて、学びと経験を深めていきたいと思っています。」

 

ネガティブな気持ちを引きずらないために

 

家庭と施設を行き来するなかで、我慢することが多かったが、それが自分の中で尾を引くことはなかったという。

「私はつらかった経験より、その後の恵まれた環境といいますか、さまざまな支援を受けることができたことの記憶の方が多いんです。

 

持って生まれた性格もあると思いますが、ネガティブなことを引きずらないように心がけています。嫌なことがあっても、一晩寝て忘れる。人とのコミュニケーションがうまく取れないと悩んだ時期もありましたよ。それでも高校を卒業するころには、相手との距離を保てるようになったのか、人間関係も楽になってきました。成長してきたのだと感じています。

 

気持ちをリセットしたいときは、音楽配信サイトで好きな曲を聴いたり、動画サイトを観たりして、上手に気分転換しています。これといって趣味はないのですが、大学生になってからは友人の影響でスノーボードを始めました。世界が広がりましたね。」

 

 

次世代のロールモデルになりたい

 

施設で育った自分が進学し、夢を叶えていくことで、同じ境遇の子どもたちに「あの人にできたなら、自分にもできるかな」と思ってほしいという。

 

「私と同じく施設で育った人は、経済的な理由で大学に行けないということが多いと思います。学びたいことがあるのにあきらめないでほしい。まだやりたいことがないという人でも、大学に行けば視野が広がり、やりたいことを見つけられます。選択肢が広がることが大事です。その選択肢をつぶしたくないという思いがあります。

 

ですから、まずは私が大学を卒業し、夢であった資格を取り、目標の職場に就職、という実績を作り、『私にもできる』と思ってもらいたいのです。頭がいい人だけが大学に行ける、と尻込みしている人もいるかもしれません。私は決して頭が良いわけではありませんが、どうしたら進学できるか作戦を練ってきたという面はあります。

 

今は社会的養護に対してのさまざまな支援があり、学びたいという意欲さえあれば、実現できるのです。だから子どもたちの夢をかなえる支援をしたいですね。

 

そして、施設を出た後の生活支援にも携わりたいです。高校生から大学や専門学校に進学できれば、通学すること自体は問題ないのですが、自立して生活できるようになるまではなかなか難しいです。施設を出てからの環境は一気に変わります。普段から支えてくれる“伴走者”の必要性を強く感じます。

 

理想的なのは、学生一人に担当一人、という形で個別にサポートすること。こうした制度が必要だと思いますし、その担当者として支援をしたいと思っています。」

 

 

夢の奨学金への応募を考えている方へのメッセージ

 

最後に、次の世代の奨学生候補に向けてメッセージをいただいた。

 

「あなたの夢、悔いが残らないように、しっかり伝えてください。きっと届くと思いますし、チャレンジした経験は無駄になりません。

 

そして、奨学生に選ばれたなら、交流会にはぜひ参加してみてください。同じ境遇の仲間がいて、お互いに良い刺激になると思います。夢に向かって一緒にがんばりましょう!」