SCHOLAR

採択奨学生の動き

2020年度活動報告会

卒業する奨学生がオンラインで発表

 

奨学生が学生生活を振り返って発表する「日本財団夢の奨学金」活動報告会が3月23日、オンライン形式で行われ、約40人が参加しました。今年度で夢の奨学金から巣立つ奨学生のうち、10人が発表し、他の奨学生やこれまでずっと伴走してきたソーシャルワーカーらから、今後の活躍を願うメッセージが寄せられました。

 

活動報告会は年に一度開かれる恒例行事の一つです。例年、多くの奨学生が発表をしています。昨年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により見送られましたが、今年度は、発表者を奨学金の受給を終える奨学生に限定し、オンラインで開催することになりました。

 

トップバッターで発表した2期生は、岩手県の大学をこの春、卒業しました。彼は、情報系の学部で既存のAI(人工知能)サービスの活用や、ソーシャルメディアの分析などを研究し、「勉強する楽しさを大学で初めて知りました。自分の好きなことを勉強するのは楽しいと分かりました」と明るい声で発表しました。

 

大学での研究について彼がまとめたスライド

 

大学生活が全て順調であったわけでなく、途中で休学をしたことも報告しました。しかし、その休学は人生の中で必要な、自分を見つめる時間になった様子で、「自分について知り、考えることが出来たかなと思う」と振り返りました。

 

発表者は活動報告のほかに「後輩へのメッセージ」も贈ることになっていました。彼は「大学1年生の自分にもし贈る言葉があるとしたら…」と前置きし、本で出会い心に残ったという言葉を引いて話しました。

 

後輩に伝えた「人の幸福は何で決まるのか」

 

一つは、人間関係についてです。「人間の幸福は何で決まるのか。ハーバード大学の研究によると、私たちを健康に幸福にするのは、よい良い人間関係に尽きるのだそうです。大事なのは友人の数でも、配偶者の有無でもなく、身近な人たちとの関係の質だと言われています」と語りました。

 

もう一つは、「自己を知る」ということでした。哲学者ニーチェの言葉「なぜ生きるかを知っている者は、どのように生きることにも耐える」を紹介し、「お金などの制約が何もない状態で、何をやりたいか考えると自分のことがわかる」と、考えることの大切さを伝えていました。

 

東京都の大学を卒業した2期生は、中東・アフリカ地域について研究し、海外にも足を運んだことなどを報告しました。同時に、自分の心の変化についても語りました。

 

発表する2期生

 

彼女は、社会的養護の子の多くは、失敗したら虐待されることから、失敗したらいけない環境で育っていると指摘し、自身も大学進学前はまじめな優等生になっていたと振り返りました。そして、大学進学ができたことで、その心の束縛から解放されたと話しました。

 

彼女は、「大学に進学できて、社会の一人として生き、失敗をたくさん経験しました。最初は怖かったり、恥ずかしかったりしましたが、失敗してそこから試行錯誤する時間があれば、立ち直れると分かりました」とかみしめるように語りました。

 

彼女は、夢の奨学金ホームページ掲載のインタビュー記事にも登場し、生い立ちや夢への思いを語っています。これについて、後輩の奨学生の一人が「もともと夢の奨学金を目指したきっかけが、あなたです。インタビューを見て、自分の好きなことを勉強されていてすごいなとあこがれました」と明かし、発表者の彼女に向けてお礼を述べる場面もありました。

 

彼女が大学1年生でパレスチナを訪れた時の写真

 

その後輩の奨学生は「私も、親に殴られるから、とにかく優等生でなければといけないという気持ちが強くて(人に問題を話せず)、結局、初めて周りの人に話した時もいい反応をもらえず、病んでしまいました」と話したうえで、発表者の2期生に向け、自身の生い立ちをインタビューで話した理由について質問しました。

 

これに対し、2期生の彼女は「私も完全に過去のことを整理できていないけれど」としたうえで、「社会的養護の子というだけの理由で将来をあきらめる人がいたら、それはすごく悲しいことだし嫌だなと思ったからです」と答えました。そして、「自分がインタビューで発することで、一人でも多くの人が諦めないで進んでいってもらいたい、という思いでした。だから、今、(インタビュー記事を読んで奨学生になったという)お話を伺えて、とても嬉しい気持ちでいます」と笑顔を見せました。

 

3年間、大阪の専門学校で学んだ5期生は、保育士資格と幼稚園教諭二種免許の取得のため、勉強に励んだことを報告しました。その専門学校に入る前の過程として、高校卒業と同時に鉄工所で働き始めたものの、自分の本当にしたい仕事ではないと考え5カ月で退職し、児童養護施設の先生になろうと決意したことなども紹介しました。

 

発表する5期生(下から2番目)ら

 

アルバイトで2年分の学費を貯めて、退職から約3年半後に無事に進学した専門学校では、当初、保育園での保育補助のアルバイトも含めて、「充実していました」と彼は話しました。ところがその後、事態は暗転。進学前のアルバイトでためていた貯金が底をつき、体調も崩して生活も危機的状況になりました。しばらくして「日本財団夢の奨学金」を知って応募し、「合格した時は本当に光が差したようでした」と振り返りました。

 

彼は夢が叶い、4月から大阪府内の児童養護施設で働くことが決まったと報告しました。「施設で過ごしたことがあるからこそ、施設で過ごしている子どもの気持ちは誰よりも分かる。子どもに関わる仕事は、まずは職員が元気であることが大事。子どものことだけでなく、自分のこともしっかりいたわっていきたいと思います」と抱負を述べました。

 

発表した奨学生の多くが、勉強の成果を上げるだけでなく、自分を見つめ直す時間としても学生生活を大切に過ごしてきたことを報告しました。そして、お金の心配をすることなく、自分の心に向き合える環境を与えてくれたとして、「日本財団夢の奨学金」事業と、寄付者の方々、ソーシャルワーカー、この事業を一から整えた日本財団職員などへのお礼の気持ちを述べました。

 

すべての発表後、参加者はオンライン上で小さなグループに分かれ、交流の時間を持ちました。奨学生たちは仲間との別れを惜しみつつ、互いの前途にエールを送っていました。