SCHOLAR

採択奨学生の動き

2018年度活動報告会

第1、2、3期生がそれぞれの1年間を発表

 

奨学生が1年間をどのように過ごしたのか発表する「日本財団夢の奨学金」活動報告会が3月18、19の両日、東京都・赤坂の日本財団ビルで行われました。例年通り、新たに加わる奨学生(4期生16人)も出席し、1、2、3期生の個性あふれる発表に耳を傾けました。また今回は、初めて寄付者の方が見学に訪れ、1日目終了後の懇談会で、奨学生らと和やかに交流する姿も見られました。(※学年や時制は報告会当時です)

 

東海地区限定のパイロット事業だった2016年度から毎年開いている恒例行事。奨学生の数が増えたため、今回から2日間にわたって行うことになりました。

 

1日目は、午後からのスタートです。奨学生が集う機会のうち最も重要な行事の一つのため、フォーマルな服装で臨みます。午前中に認定証授与を終えたばかりの4期生は特に高校の制服やリクルートスーツを着用する奨学生が多く、会場内には程よい緊張感も漂いました。

 

新年度からの奨学生も交え、初めて全員が集合する行事でもあります。そこで冒頭、奨学生に伴走するソーシャルワーカー4人の紹介がありました。一人ひとりに担当のソーシャルワーカーがつくことは、給付型であることと並んで、夢の奨学金の大きな特徴となっています。

 

ソーシャルワーカー4人が奨学生の前であいさつ

 

これが終わると早速、発表がスタートしました。持ち時間は1人8分程度。大多数の奨学生が写真や動画を盛り込んだスライドをモニターに示しながら話し、終わりに会場からの質問に答えました。持ち時間を超過する発表が多く、1年間の活動が充実していたことを伺わせました。

 

この日は1~3期生の19人が発表しました。

 

トップバッターは、2期生の宮川史誉さん。上智大学総合グローバル学部の2年生です。1年生の時と同様、2年生となったこの1年も、ESSなどのサークル活動やアルバイトに力を入れてきたと話しました。

 

発表する宮川さん

 

宮川さんは、3年生からメジャー(専攻)とサブメジャー(副専攻)を、それぞれ中東アフリカ、国際政治にして専門的に学ぶことを紹介し、「将来、パレスチナ難民の支援をしたいので、メジャーはこれにしました。サブメジャーは、政治と深くかかわりあいのある難民問題を理解するためです」と説明。「3年次は学業優先で頑張りたいです」と決意を語りました。

 

「夢の形が変化した」と話す奨学生もいました。東北で福祉を学ぶ大学2年生の女子学生(2期生)は、奨学生に選ばれた時の夢は「社会的養護に関わる研究員」でした。しかし、勉強や関連のアルバイトを積み重ねるうちに、「これは仕事にしたい夢なのかな」と疑問が生まれ、仕事にしたい夢として、「成年障害者の社会参加支援」を考えるようになったと報告しました。

 

作家活動もスタートさせた1期生の名古屋芸術大学美術学部3年生、
近藤萌さんは育った児童養護施設でワークショップを行ったと発表

 

彼女は、夢の奨学金の奨学生の間で2018年5月に誕生した当事者団体「ゆめとみらい+」での活動にも触れ、社会的養護出身者の当事者の視点を生かした議論を深めていきたいと抱負を語りました。

 

2期生の福岡大学スポーツ科学部2年生、伯野海人さんは、つまずきを率直にユーモアも交えて報告しました。つまずきとは、5月に経験した交通事故。写真も紹介し、明るく話しましたが、打ち込んできたボクシングの試合に出られなくなったことについては、「自分のミス。ふがいなかった」と真剣に語り、試合復帰できる新年度からの活躍を誓っていました。

 

伯野さんはこのほか、「ボク、こう見えても後期フル単でした!」と学業にも努力を続けていることを笑顔で強調。「来年からゼミが始まります。(ボクシングにも関係がある)脳しんとうについて勉強しようと思っています」と話していました。

 

笑顔で発表に耳を傾ける奨学生たち

 

3期生のHAL名古屋専門学校高度情報処理科1年、河原﨑光希さんはまず、会場を訪れていた寄付者の方にお礼の言葉を述べました。そして、プログラミング言語などを学んでいると報告したうえで、会場にクイズのような課題を出しました。9つのマス目のうち、4つのマス目にすでに入っている数字を手掛かりに法則を見つけて、残りの5つのマス目に数字を入れていくものです。

 

「わかった!」「えー、なに、なに?」と途端ににぎやかになった会場に、河原崎さんは、「これは魔法陣の法則と呼ばれています。プログラミングを作るうえで重要なものなので紹介しました」と笑顔で話していました。

 

1期生の中京大学法学部3年生、長谷川俊介さんは、学びの中で感じた驚きや発見を伝えました。大学では目指している小学校教諭の資格が得られないため、並行して通信でも学んでいる長谷川さん。東京で行われたスクーリングで、いずれも「なじみが薄いから」という理由から、生活科と音楽科の授業を選択した時のことを紹介しました。

 

発表する長谷川さん。生活科で製作したおもちゃの写真に、会場から「かわいい」の声も

 

生活科では、想定外にもおもちゃを作る課題が出て苦労したこと、音楽科では「カエルの歌」の歌詞をあらためて読んで、「ケロケロ」「ゲロゲロ」など人によって記憶している歌詞のパターンが異なると知って驚いたと話し、会場でも笑いが起きていました。

 

またボランティアで通った小学校について、「先生が、正直怖かったです」と振り返りました。そのうえで「社会は自分の思っていた以上に厳しい。でも、つらい中でも頑張れば誰かが見ていてくれると実感もしました。頑張っていきたい」と話しました。

 

3月で学校を卒業した奨学生も2人いました。

 

2期生の沼津情報ビジネス専門学校子ども保育科3年生、石岡一幸さんは4月から公務員となり、保育士として公立保育所で働くことが決まっています。石岡さんは、児童養護施設と里親のもとで育ったことから、早く自立するため高校卒業後にいったん建築関係の仕事に就いたものの、「子どもを守れる大人になりたい」と一念発起し、保育士の道を目指したことを紹介しました。

 

石岡さんの発表で恒例となった手遊び「かみなりどんがやってきた」で盛り上がる会場

 

石岡さんは、実習などを通して、社会養護の当事者の視点だけでなく、保育者の視点でも保育について考えられるようになったといい、「みんなに支えられて今があります。感謝したい」と話しました。

 

1期生の日本福祉大学国際福祉開発学部4年生、熊谷モニシャさんは、名古屋に拠点がある軽自動車の販売会社に就職し、営業の仕事に従事します。海外とも関連のある福祉系の仕事に興味を持っていましたが、「海外に行くより、日本のもっと身近なところで関わりたいな、と思うようになった」と、日本の企業で就職を決めたことを説明しました。

 

就職活動は、自分を見つめる機会になったと語り、「(アルバイトで携わってきた、子どもを支援する)NPOにも未練はあるので、転換期が来た時にすぐ動けるように保育士の資格を取りたいと思っています」と決意を新たにしていました。

 

懇談会で談笑する奨学生ら

 

夕方には立食式の懇談会が催されました。奨学生は、社会人になる仲間との別れを惜しんだり、新たな仲間と会話を弾ませたりして、交流を深めていました。