SCHOLAR

採択奨学生の動き

「しあわせな明日を信じて」

夢の奨学金 奨学生による発表
社会的養護の子どもの作文集出版記念講演会で

1-05ab5

 

乳児院・児童養護施設の子どもたちと彼らに関わる施設職員らの手記をまとめた作文集の出版記念講演会が12日、名古屋市で開かれ、4月から日本財団がスタートさせる「夢の奨学金」奨学生3人が今後の抱負などを発表しました。いずれもこの春の進学が決まっていたり、すでに大学に在籍したりしています。生い立ちを振り返り「辛かった」という言葉も出た発表でしたが、全員が関わってくれた人たちへの感謝を心を込めて語り、出席者から大きな拍手が送られました。

 

この講演会は、NPO法人こどもサポートネットあいち(長谷川眞人理事長)が、独自で編集した作文集『しあわせな明日を信じて 3』の出版を記念して開き、約20人が出席しました。作文集は、乳児院・児童養護施設生活している子や施設を出た子どもたち23人の成長の過程を追おうと2008年から出版が始まり、今回が3冊目です。関係者によると、このように同じ子を追跡する形で定期的に編まれる作文集は他に例がなく、書いた子どもたちがどのように成長、発達し、人生をどう生きて生活しているかを知る貴重なレポートとなっているそうです。

 

2-5b49b
飯森さん

 

奨学生3人は、「夢の奨学金」の趣旨に理解を示している長谷川理事長の厚意により招かれ、社会的養護出身の子どもとして登壇しました。飯森美羽さんは「公認スポーツ栄養士になりたい」と発表。小さなころから好きだったスポーツに関われる仕事に就きたいと願っていましたが、18歳で施設を出ることが決まっていることから、「進学どころか、生きていけるのか不安に感じていた」そうです。奨学生となることができた感想は、「うれしいというか、ほっとした」だったと打ち明けました。抱負として、「一般の人よりチャンスは少ないかもしれないが、こうして支えてくださる方がいる。奨学生の一人として努力していきたい」と述べました。

 

3-46ff5
熊谷さん

 

熊谷モニシャさんは現在、大学1年生で国際福祉開発学を学んでいます。家庭や里親さんとの関係や、勉強してもできないという問題、それに容姿のことなど、様々な苦しみを抱えていたことを紹介したうえで、暮らす環境が変わったり治療を受けたりすることで集中力が向上し学力が進学校に合格するほどになったことや、日本人と外国人との間に生まれた女性がモデルとして活躍している姿を見て自信をもらったことなどを報告しました。「将来は青年海外協力隊に行きたい。今、喜びでいっぱいです」と笑顔で話しました。

 

4-4f444
榊原さん

 

榊原綾香さんは、施設に入るきっかけの一つとなった身近な人の精神障害について話し、「将来は精神保健福祉士になりたい」と語りました。「進学するために様々な奨学金を申請したところことごとく落ちた」と明かし、「一番いい奨学金に受かることになって嬉しい」と声を弾ませました。また、「子どもは3人」、「65歳になったら民生委員になりたい」など将来設計を具体的に話して会場から笑いもとり、「地域のお母さん的な存在になりたい。私がこういう境遇だったからこそできることを、私らしくやっていきたい」と力強く述べました。

 

5-297d4
長谷川理事長

 

講演会ではこのほか、冒頭に長谷川理事長が「乳児院・児童養護施設の子どもたちを追跡する作文集出版は、どこもやっていない取り組みです。是非本を手に取っていただき、乳児院や児童養護施設で生活している子どもたちや卒園された方の気持ちを理解し、参考にしていただけたらと思います」などとあいさつしました。

 

6-c7c0d
久保さん

 

また、施設から巣立った若者の発表もあり、大学院生の久保勇希さんが、ユーモアも交えながら児童養護施設出身者としての経験を語りました。

 

久保さんは、通っていた大好きな高校に通い続けるために自ら施設を探して入所に至ったことや、大学進学を阻む様々な事情があったものの高校の先生を中心とした支えのなかで実現させることができたことなどを紹介。「進学して自分がどんなに恵まれているかを知り、勉強するごとにそれを実感しています。過去に辛くあたられた人たちに対しても現在は、感謝すべきと思えるようになりました。人に助けてもらうためには、自分が一生懸命でなければいけないし、助けて頂いた方に精一杯むくいたい」と話しました。また、他の社会的養護の子どもたちへのメッセージとして、「自分が向かいたい道にまっすぐ進んでください。助けてくれる人は必ずいると思います」と訴えました。

 

「日本財団ブログ ソーシャルイノベーション探訪」より転載